日本の食文化を世界へ 松下来未(5期)

うま味エキスパート
松下来未(5期生)

大学中退で飛び込んだ広告の世界

第一高校卒業後は関西外国語大学に進学しましたが中退。大阪で広告代理店に就職し、広告やデザインの仕事を始めました。「美しいものをつくりたい」という思いがあり、広告の世界に入ればそれができると思っていました。実際にはコミュニケーションや表現方法を学ぶことが中心で、逆にそこが面白くてのめり込みました。
インターネット黎明期に東京に出​てIT企業に転職し、一度目の独立をしました。この時は20代で経験も少なく、勉強の必要性を感じていたところ、ご縁があり立ち上がったばかりのガンホーの子会社に入社しました。その後ガンホー本社に移動になり、合計5年ほど勤務して再度独立しました。

広告の世界からの転機

広告はとても忙しい業界です。徹夜も多く、いつまでも続けられる働き方ではないし、何か物足りなさも感じていました。そんな頃、断食をした経験がきっかけで「出汁(だし)」の世界に出会いました。断食明けに口にした料理が驚くほど美味しく感じられ、「目の前にこんな素晴らしいものがあったのか」と衝撃を受けました。
その体験から「おいしいだし」というウェブサイトを立ち上げ、研究者や生産者、料理人に取材するようになりました。その中で、フランスで活躍するある著名な料理人との出会いが大きな転機になりました。本当に美味しい料理の本質を教えられ、自分の考えが大きく変わりました。

思い切ってヨーロッパへ

コロナ禍でリモートワークが一般化したことや、クライアントが理解してくださったこともあり、思い切ってヨーロッパに渡りました。各国を回りながら、日本食がどう受け止められているかを調査したり、生産者の現場を訪ねたりしました。そうした流れでオランダに移住して3年ほどになります。
オランダを拠点に選んだのは、歴史的に多様な文化を受け入れやすく、食品分野では「フードバレー」と呼ばれる研究・産業集積地があるからです。ここから日本の食文化、とくにうま味を広める活動をしています。

日本の食文化を世界へ

今は「うま味エキスパート」として、ヨーロッパでワークショップやセミナーを開催しています。昆布水と普通の水を比べたり、出汁あり・なしの味噌汁を飲み比べてもらったり、現地の料理に出汁を取り入れて味の違いを体験してもらったりしています。
うま味は依存性の高い塩分や糖分とは異なり、人をほっとさせ、満足感を長く与えるものです。私は「うま味を通じて人を幸せに、健康にする」ことをモットーに活動しています。
そのほか、企業や自治体からの調査・リサーチ依頼と、ワークショップの開催。そして、世界各国のうま味食材を扱うECサイトの運営も少しずつ始めています。

一歩踏み出すことで出会える場所

私は若い頃から「海外に行きたい」と漠然と思っていましたが、具体的な形は見えないまま手探りで歩んできました。結果的に今の活動にたどり着き、「これが自分の答えだ」と思えるようになりました。
現役の皆さんには、「やりたいことがあれば、年齢に関係なくいつでも挑戦できる」と伝えたいです。道具も環境も揃っています。大事なのは、手探りでも一歩踏み出してみること。そうすれば、きっと自分の居場所や答えに出会えると思います。