木とともに、100年先の人と地域を育てる 大竹野 千里

駿河木材有限会社 代表取締役大竹野千里

私は父の転勤が多かったこともあり、高校では転校せずに過ごせる環境を求めて、寮のある鹿児島第一高校に進学しました。テニス部で活動しながら、将来は小学生の頃から憧れていた養護教諭、いわゆる保健室の先生になりたいと考えていました。

高校卒業後は長崎大学の医療技術短期大学部で看護を学び、熊本大学へ編入して養護教諭の免許を取得しました。ただ、すぐに学校へ行くのではなく、子どもの病気や心身について専門的に学んでから教育現場に立ちたいと考え、熊本市立病院の小児科で看護師として2年間勤務しました。その後、熊本県内の小中学校で養護教諭を経験し、地元に戻ってからは支援教育にも携わりました。
結婚を機に南大隅町へ移り、夫が経営していた林業会社「駿河木材」を手伝うようになりました。ところが約9年前、夫が突然亡くなりました。林業についてほとんど何も知らない私でしたが、葬儀の席で「私が代表を務めます」と宣言しました。

夫が大切にしていたのは、「会社は従業員とその家族の暮らしのためにある」という考え方でした。そして林業は、目の前の木を切れば終わりではない。30年、50年先の山の姿を想像しながら木を切る仕事だとよく話していました。その思いを途切れさせたくなかったことが、会社を継いだ一番の理由だったと思います。
社長になってからは、重機や大型トラック、チェーンソーなど必要な資格を取り、現場で一から林業を覚えました。一方で、外から入った私には「なぜ昔からこうしているのだろう」と疑問に思うこともたくさんありました。

そこで、自分が歩んできた教育の経験と林業をつなげようと始めたのが「木育」です。大学生のインターンシップを受け入れ、地元の保育園、小中学校などへ活動を広げてきました。現在は南大隅町木育推進協議会を立ち上げ、保育園から小学校まで、木や森を通じて学びがつながる仕組みづくりにも取り組んでいます。

さらに、福祉事業所と連携して杉の苗木を育てる「林福連携」にも挑戦しています。障がいのある方や地域の高齢者など、それぞれができる形で林業に関わり、仕事や生きがいを生み出していく。これも地域で企業を続けていくために必要なことだと思っています。

駿河木材が掲げているのは「Community with wood(木とともに)100年先の笑顔のために」という言葉です。木を植え、育て、伐採し、また植える。山を適切に管理することは、木材を生み出すだけでなく、川や海、地域の暮らしを守ることにもつながります。

企業だけが残っても、地域がなくなれば事業は続きません。だから私は、林業を通して人を育て、仕事をつくり、山と地域を次の世代へ渡していきたい。教育も、福祉も、林業も、今の私にはすべて一本の線でつながっており、これまで経験してきたことに無駄なものは一つもなかったと思っています。

文/松下尚道